『廃線のヴィンテクル』 第1話 イントゥ・ジ・() アリーナ

V.C.(ヴォルカニックセンチュリー)87。春に咲く希望の花も哀れに踏み拉かれるネオカゴシマ・ウェスト駅は相も変わらず灰色だ。


山体崩壊を起こし戦後最大の犠牲者を出したあの火山災害の記憶も、人々の脳裏からはモノクロ映画めいて消えつつある。この時期ですらここがこうなら、故郷はもっと酷い色だろう。だが実際それがいい。それこそが最後に相応しい。ニシキエ海運のタイミッ級軍艦は、終着の大陸へと私を導く。


その故郷、ネオカノヤに新設された公称収容人数一万人の多目的サイバーアリーナ「M.S.G.」(マコチ・セガラシ・ガンタレ)での杮落し兼全国ツアーファイナルを明後日に控え、奇しくもこの日廃線を迎えラストランであったO隅ラインのナイトトレインエキスプレスに飛び乗った私を迎えるように、あの山がいつものように火を噴いた。


空振に瞬時に連動したニューエストモデルのガラケーデヴァイス、WxCx10021-Sのアプリケーションウェザーリポートが示す予報は「灰強シ」。


いつものようにのはずだった。


灰やら砂やら石やらを浴びてこの地で6574日程生きたつもりだけど、


私はあんな鮮やかな炎の色を…見たことが、無い。


「…頭来る」
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呟きなどには流さないメタ・ノンフィクション「3x3(65)+to,go.囂々=」

好きなローカルバンドが地元の場末たバーに来るというので行こうと思っていたらふと気付いた。20代で最期に観るライヴじゃんね、と。

幼児の頃から記憶の中に存在しており地理にはあかるいはずのその場所は実のところ見慣れぬ入り口を構えていて、色々な記憶の混濁する僕の気持ちはなにかを躊躇したのかそこを素通り、徒歩数十秒の商業施設へと足を運ばせた。生家の隣町、僕が子供だった頃、『デパート』といえばここだった。懐かしい店内をぐるぐる歩き回りながら気分を落ち着ける。もっとも僕の記憶の中でその店は三階建てで、最上階にはほどよく枯れたゲーセンもあり、電器コーナーでは黒いマグネシウムボディのウォークマンを買ってもらったりしたし、吊るし売りの服の中にはライセンス無さ気なバンTがこっそり捨て値で売られていたりもした、魅惑の市場であった。はずなのだが。外見は変っていないのだが。天国への階段は掃除用具で物置のように塞がれており、当時は気にする必要などなかった特売の食物ばかりが目に入ってくる。

ペットボトルの茶を買い、ようやく乗り込んだライヴスペース。最近リリースされた彼らの音源はとても素敵だった。生演で体現される、呑んでもないのに酩酊感を誘うフィードバックのアンプリファイド。実は僕も学生の頃、それぞれの自意識の塊のようなバンドを仲間たちとやっていて、彼らと一緒にイベントをしたこともあるし、呑んだこともある。確かあのギターボーカルとは同い年だったはずだ。折に触れて見知る所謂ミュージシャン然としていない趣味や思考が面白くて、働き始めてからも、観れる時には観に行っていた。勿論、こういう夜の重さはとうに僕と彼らでは違う。あんなにも焼き付けた僕の咽喉から今漏れるのは、ネクタイでか細くなるかわりに倍化された溜息と、濾過された敬語だけだ。

しかしそんな傍迷惑な感傷を知ってか知らずか、彼は最後の曲でこう言ったのだった。「歳取ったって変わんねぇぞ」と。確かにそう叫んだのだ。客も疎らな薄暗い空間で君は多分、僕に向かって。非音源曲で始まり非音源曲で終わった、そんなステージで。

彼らの音楽の素晴らしさが相変わらずなら、自分に都合のいいように他者の芸術を曲解する僕の才能もまた、相変わらずだった。そんなことが何よりも今の俺を動かす。過去に打たれ未来に弾かれた俺を動かす。ありがとう。がんばるよ。永遠の憧れに別れと再会を告げたつもりになって、僕はその店を出た。次の日も仕事なので呑まずに帰ったけれど、僕の胸の中は眠りに就くまで熱かった。

新作アニメ『廃線のヴィンテクル』

時はXX87年。折からのバンドブームに乗ってマニアックな人気を誇っていたロックバンド「Vintacle」の解散ライブを終え、今日限りで廃線となる鉄道で帰省するおさげ髪の少女、宇住庵(17)。懐かしい沿線の景色に想いを馳せる間も無く、突如発生した桜島の歴史的爆発の地殻変動により日本列島は鹿児島以外全部沈没。畜産技術の暴走の副産物であるブランド黒牛ミノタウロス生体兵器を従える悪の組織"ブルズ・オン・パレード"が跳梁する無法の焦土をハードケースに仕込んだトミーガンで撃ち結ぶ庵。命からがら辿り着くも既に魔都と化していた故郷・K屋シティを鎮めるための手段はただ一つ。火の山を臨む廃線を弾き語る旅で人々のサウンドフォースを高め、咲き初める桜と灰が嵐を起こす満月の夜の駅でサングラスとシルクハットの悪魔と契約し、本土南端最果の魔窟「涅槃城」にて究極の芋焼酎に七日七晩浸した究極のチェリーサンバーストレスポールで黄金のライトハンドを捧げると、灰色の空から天国への階段が舞い降り赤熱するギターを抱えた人型ロボットが七色の鉄路を架けるのだという――




HR/HMから歌謡曲まで往年の名曲たちが繋ぐ絆のレール! 庵のGIGを毎回付かず離れず観ている謎の花束の少年と、庵が戦場で再会した初恋の男性(組織の幹部)のトライアングラーラブロマンス! 庵の右手が光った上に唸る音速のギタープレイ&メカニカルアクション!




全てが燃え尽きた時、薔薇色の安息日は訪れるのかーー




ワイガワイチ
「私が私ち、




ワイガナイヨ
御前が何よ…?




昭和ラブコメスラップスティックヘヴィメタル火山ギャグロボットファンタジー









2013




OUT





「…頭来る」
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原作・ストーリー構成・脚本:安ノボル
音響監督・音響効果・音楽:t_AGCH
製作:廃線のヴィンテクル製作委員会
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年度末進行を嘆くメタ・ノンフィクション「HIKING BUS」

呑み会のために車を家に置いておく必要があり、バスで出勤した。アパートの近所、大部分が錆びて使い物にならないように見える古びた停留所に、しかし白色の剥げて斑らな車は数分遅れで着いた。天井の低い車窓の切り取る空は冬だというのに青く高く太陽は熱く眩しく、どこか夏を錯覚させた。

普段通っている通勤路からは外れた田舎道を、バスは鈍行する。職場の近くを通っているはずなのに見慣れぬ景色。補完を求めて遠くを眺めてもただの田園風景。時間給のリミットが迫っているが、こればかりはどうしようもない。水溜りと化した一帯の休耕田の光が眼鏡で増幅されて顔を焼いた。暖房との二重保温にクラクラする頭。

降り立ったバス停の前でようやく認識が元に戻ったけれど、見慣れた商店街や職場さえ、眩んだ眼にはしばらく異国だった。

新聞掲載記念メタ・ノンフィクション「葉桜」

特に予定のない休みが取れて、敢えて誰にも声をかけずに、懐かしい街に来てみた。高校時代の大半を過ごした街。歩き慣れた路をあてもなく歩いている。実家から路線バスに揺られて一時間足らずの地方都市。都会のようで静かであり、田舎のようで散れている。そんな中途半端な街を、しかし僕は子供の頃から愛していた。

この穏やかな晩春の裏にはいつも、浮き足立つ気分に不釣合いな停滞が迷い居る。そんな日々を積み重ねてこその成長だと頭では理解しているはずなのに、昔の自分というものは漏れなく恥ずかしく、今の自分と繋がりはないように思える。こうやっている自分も直に哂いたい過去になる。まぁそれは別にそれでもいい。それも成長だから。怖いのは、哂えるような勢いもなく阿ってやり過ごして熱病に浮かされる季節の方が、よりすぐに去ること。表面上はうまくいってるはずなのにな。ふと我に帰れる頃は、とうに盛りは過ぎているのだ。

ここで子供から大人になり、色々な人に出会い、色々な事をやってきた。自意識の発露だけが存在理由であったような思春期は今にしてみればやはり赤面ものだが、不思議に今の僕はそれを笑えない。むしろ、讃えたい。3年足らずの期間でお前、よくやってたよ。そうですか。そうだよ。そうかね。今の僕にはできないよ。だからよ。ふと誰かに呼ばれた気がして目を遣ると、道端に随分と落ちた桜の木がそこにあった。

時の流れを越えてきた、逝くものと残るものを同時に宿し、巡るもの。踏み拉かれた花弁と、光を透かして輝く新緑。ああ、僕も何もあの時ときっと変わらない。変わっていない。そしてそれはきっと、無為に悲しむことではないのだ。
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